今さっき少しだけ書き直したものです。
今後たまにこうやって投下するかも。
では追記より。
『常連客の作り方』
「どうして僕の店にはこう客以外しか来ないんだろうな」
「何言ってるんだ私が来てるじゃないか」
「きみは客じゃないよ魔理沙」
いつものように閑古鳥の鳴いている僕の店、香霖堂には今日もまた魔理沙が来ていた。
どうやら何時も通り本当にただの暇つぶしで寄っただけのようである。
そして不意に思ったことを言葉にすると、魔理沙は何を馬鹿なことをと言いたげな表情をしている。
「そりゃこんな辺鄙な所に普通の客が来るはずないじゃないか。 それに何より香霖だからなぁ」
「それはそうだが……」
立地条件が絶望的なのは僕も理解している。
だが妖怪と人間、両方に商いをするのが目標である僕にとっては良い立地条件なのだ。
確かに些か妖怪寄りなのは理解してるが……。
「ここに来る客と呼べる人物はそう居ないからな……」
ここを店として利用しに来る人物はそれほど多くない。
紅魔館のメイド長である咲夜や、永遠亭の永琳やそのお使いで来る鈴仙……くらいか。
紫も確かにたまにものを買っていくが、彼女を客として扱えるほど僕の度量は広くない。
他にも極たまに物々交換等で買っていくものも居はするが……やはり一番来るのは霊夢や魔理沙だろうな。
彼女達は決して客ではない。
「まぁ香霖が繁盛するなんてありえないぜ」
先ほどは聞き流したが、魔理沙は気付いているのか完全に名指ししてきた。
ここまでハッキリ言われると少しだけ悔しい気持ちもある。
せめて客が毎日一人くらいは……来て貰えるようには出来ないだろうか?
「それで何か手はないかい?」
「なんで私に相談なんですか? 私はただの新聞記者ですよ」
少し迷惑そうな表情をして理由を尋ねて来る文。
だがその理由なんてものは特にはない。
ただ単純に魔理沙の次に彼女が訪れたというだけだ。
だがそんな理由自体にはそれほど興味がないのか、文は腕を組んで考えるような表情をした。
「でもここを流行らせるやり方ですか~……私の新聞で宣伝とか」
「いやそれはもう前にしただろう? 結果は全く変わらずだ」
「あやや……それもそうでしたね」
二人しかいない店内で二人して頭をひねる。
どうやら文は意外にも僕の質問について真剣に考えてくれているようだ。
ただの気紛れか暇なだけかもしれないが、今はとりあえずありがたい。
「誰か常連客が一人でも出来てくれれば良いんだけどね。 毎日買う気があって来てくれるお客が」
「……それは難しいですね。 だってそもそもここは私でも何の店だか分からないのに」
確かに文は結構な頻度でここを訪れる。
本肉曰く新聞を届けに来るだけとは言っているが、それ以外でも結構来ている気がする。
ただそれ以上に今は気にするべきことがある。
良く来る文でも何の店なのか分からない。
それは確かに道具屋としては致命的だ。
「何の店か……外の世界の道具を扱う店じゃダメなのか?」
「正確に言えばガラクタを集めてくる店ではないでしょうか? まぁでもそうですねぇ……」
今何か物凄く失礼な発言が聞こえた気がするが気にしないでおく。
幻想郷において細かいことを気にし過ぎることは苦労しか呼ばないからね。
「外の兵器すらも悠々と使」
「却下だ。 事実を害した脚色はいらないよ」
「脚色は大事で……い、いや! 高い評価は必要ですよ!」
一瞬自分でも脚色を認めようとしたな?
まぁ自分でも彼女の記事にたまにある脚色に対しては気にしているみたいだな。
他の天狗よりはマシだが、彼女の新聞もそれなりの脚色はあるからな。
ただこうしていて少しだけ分かったことがある。
「ふむ……まぁ良いか。 お客を増やすのは諦めよう」
「はい?」
「無駄に客が来ても道具があるべき人物の元に行くかどうかは分からない。 それに僕の読書の時間が減る」
かなり今頃ながら僕の答えはそれに決まっていた。
これでは文を呼び止めた理由がなくなるが、これで納得してしまったらそこまでだろう。
「はぁ……まぁ良いですか。 私も客が増えても困りますし」
「ん? 何か言ったかい?」
「い、いいえいいえ! では私はこれで失礼します」
何かを呟いた文だったが、僕にその言葉が届くことはなかった。
だから聞き返したのだが、文自身は物凄いスピードでつむじ風のように出て行ってしまった。
「まぁ良いか……」
何か重要な用件ならば今度来た時に言うだろう。
「今度……あぁそうか」
そこで始めて僕は気付いた。
そういえば文はほぼ毎日店に来る上、霊夢や魔理沙のように強奪せず極たまにだが商品を買っていってくれる上客だ。
そう考えてみれば彼女こそがこの香霖堂の常連客と言えるだろう。
そう思うとそれなりに気分が良い。
「……今度来るまでには何か喜ぶものの一つでも用意しておくか」
そう思いながらも僕は気分良く読書に戻った。
僕の店にも常連客がいる。
それに喜ぶくらいには僕自身にも商人の気質があったということだろう。
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